澄心の茶室
場所は古い町並みを残る市街地のバス通り沿いにある。日々車や通勤の人たちの交通量が多い場所である。
十数年前に建売で購入した、平屋住まいのご夫婦からの依頼により、室内を改修してお茶室を計画できないかとのご相談を受けて計画が始まった。
しかし進める上で、計画には様々な問題点があった。
ご夫婦は音楽にかかわるお仕事をされており、自宅でも時折、ピアノなどのレッスンを行っていた。そのため、演奏の音が外に漏れないようにと外の騒音が聞こえないよう、防音を重視する事。改修以前から、二重サッシや防音ドアが付いており、それらを残したまま、茶室という非現実的な相反する空間を作り上げることは、難題であった。
次に問題になったのは、改修工事で茶室を作ることだった。
茶室は本来、京間と呼ばれるモジュールで考えられるのだが、近代の建築様式(特に関東圏)は関東間(田舎間)とよばれるモジュールで建築されることが一般的である。(京間の方が関東間に比べ、畳一枚の大きさが大きい。)
関東間で建てられた部屋に京間で茶室を作ると、部屋に収まらず、当てはまらないのである。
そして茶室は、お客の動線と主人の動線が交わってはいけないという事もあり、
動線計画には、非常に神経を注いだ。
そんな問題を一つずつ丁寧にそぎ落としながら、丸一年の計画・打合せを経て、ついにこの計画に至った。
茶室自体も古典的な茶室ではなく、少し崩した雰囲気のモダンな空間というご要望もあり、茶室自体の基本の精神や作法、各部分の寸法などは抑えつつ、シンプルでかつ繊細でモダンなものとなるよう心掛けた。
床の間には黒漆喰をわざとムラを出して塗り上げ、現代水墨画のような要素を入れ込んだ。
それに合わせ、床柱には桧錆丸太、床板には樟の耳付き無垢板、蹴込にはアクセントで無垢のシャム柿を入れている。
天井は蹴込天井を模した形式にしており、天井高さの違いにより、主人と客との格の違いを現して敬意を示した。
材には桐合板をそのまま張上げ、さびを表現した。織り上げた天井は杉の格子を落し込み、間接照明によって本来茶室の要素である、天窓から差し込む淡い自然光を思わせる事を考えている。
客の入口である、躙り口には鳥海山から掘り出された神代杉の薄い一枚板をそのままの木目、そのままの色で使い、何千年もの間地中に埋まっていたという時間的な要素を入れ込んだ。引手には黒柿を使っている。
空間は全体に落ち着いた色味を採用し、床の間がより際立つように心がけた。
訪れた客人が、雑念が消え、清らかに澄んだ心になってもらえるよう、
そして、日々音楽・芸術にふれている依頼者ご夫婦に美的・芸術的感興にひたっていただけるようなお茶室となっていただければという思いを込めた。
『澄心の茶室』:専用住宅 ※既存住宅改修工事所在地 : 新潟市中央区関屋
用途地域 : 第1種住居地域
防火指定 : 準防火地域
階数 : 地上1階
竣工 : 2019年10月15日